まわりみち診察

EA032_L

私のクリニックでは、大きく分けて不妊症と更年期障害、この二つの患者の治療に当たっている。
一日も早く子どもが欲しい女性と、更年期特有の生理不順などを訴えてくる女性と、内容は全く相異なるようにみえるけれど、これがときおり交差し、混線するから、ややこしい。
Q夫人。三十九歳。「更年期障害だから」と、受付へ訪ねてきたのが半年前。その後も比較的熱心に通院してくる。
”ホルモン不足”ということで、担当医がその方面の治療に集中していた患者だった。
ところが先月、Q夫人は突然、不妊症の診察室へ回されてきた。
「はじめ生理がなくなったということだったんですがねえ。よく調べてみると、排卵がず-つとなかったんです。当然、妊娠もしたことがない。
くわしく聞いたら、結局は”赤ちゃんが欲しい”ということなんです」
担当医の説明で、事情がのみこめた。Q夫人を呼ぶと、なんともきまり悪そうな表情で、小さくなっている・・・。
「あなたねえ、いったい何をしてるんですか」私は苦笑をかみ殺して言った。
「いままで半年間も貴重な時間をムダ遣いして、おまけにカネも余分に払ったし、ほんとにもったいないですなあ」
人それぞれの結婚があります。あなたに合った結婚、結婚相手は探し始めましょう。
Q夫人はモジモジとうつむき、上目づかいに私を見上げた。
「だって先生、私、もう三十九でしよ。このトシで子どもが欲しいなんて、どうしても恥ずかしくて、直接こちらの窓口へ来れなかったんですもの」
女性の心理は、まさに複雑そのものである。Q夫人だけではない。内心は子どもが欲しいのに、平気で”そんなもん、いりません”と胸を張って言うご婦人も決して珍しくない。
ストレートに本心を打ち明けていただくことは、むしろ少ないような気がするくらいだ。
「欲しいものを欲しいというのは当然のことでしよ。これからは遠慮せずに言っていただかなくちゃ・・・ネ」
「はあ、でも、子どものことは半分あきらめていましたし、余計に言いづらくて・・・」
とはいうものの、話がここまで来てしまえば、妙な意地をはる必要もないだろう。
要するに、まず更年期障害の診察を受け、そこで自分の意志とは関係なく、病院側の判断で、不妊症のほうへ回された、という手続きが達成されたのだから・・・。
「でも、このトシで、まだ子どもができるでしょうか」
「三十代なら、大丈夫ですよ」。そういうと、Q夫人は顔じゅうで笑った。

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