染色体異常の例

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「先生、実は先月に三度目の流産をしまして、……私、どうしても子どもが欲しいもんですから、この際、徹底的に原因を調べていただきたいと思って、やってきました」
C代さんが、こういって来診したのは、夏の終わりごろだった。ご主人も同行しての、家族ぐるみの診察、検査・・・。
そして、二カ月がかりのすえ、夫妻ともに染色体異常があり、それが原因で流産した確率が高いとわかった。
流産には、実に数多くの理由がある。生まれつきホルモンの分泌がわるい場合とか、妊娠中に過激な労働やスポーツをした場合は一般によく知られている。
最初に流産や中絶をしたとき、つぎの流産の原因をbくってしまうことも珍しくない。
このほか、近年、染色体検査をするようになってからは、C代さんのような染色体異常によるものが発見されるようになった。
そして、残念ながら、染色体異常は現代の医学では防ぎようがないのである。
「やっぱり、そうですか」と消え入りそうな声で言うと、C代さんは深くうなだれた。肩が小刻みに泣いていた。
染色体異常でさえなければ、原因を究明することで多くの流産は防げる。だから医者は「つぎは大丈夫でしょう。またがんばりなさいよ」と、やさしい言葉のひとつもかけるのが普通だ。
だが、C代さんのようなケースは医者として対応のしょうがない。遺伝関係の学者の発表では、流産児の四○%に染色体の異常を発見するとの報告もあるくらいだ。
ただ、誤解のないように付け加えると、流産した夫婦の大多数が正常であり、医学的に治療できる余地は十分あるのだけれど・・・。
素敵なパートナーに、出会っても幸せに付き合うには努力が必要です。
「あの―、私はほんとうに、どうしてもダメでしょうか」
C代さんは、あきらめかねた表情で聞いてきた。それは当然のことだろう。私はつとめて平静に宣告をつづけた。
「もちろん、正常な妊娠経過をとることがあるかもしれませんが、流産の確率は高いのです。そのうち、あなたの体も損なわれかねませんしね。そこのところを、よく考えてください」
染色体異常に気づかず、いつかは子宝に恵まれるだろうと夢を抱いて明け募れを過ごすほうが幸福なのかもしれない。
だが、現代の医学で徹底的に究明されたあと、納得のうえで趣味や事業に新しい生甲斐を求めるのも、今日的な人生ではないだろうか。

参考: