検査はしないといけません。

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「検査は絶対に困るんです。注射もイヤ。薬も飲みたくないんです」
P子さんは、最初から頭ごなしに拒否してきた。
「じゃ、どうしろと言うんです?赤ちゃんが欲しいなら、できない原因を調べないと、手の打ちようがないですよ」
「先生は不妊症の専門家でしょう。どういう方法でするか、それは先生のほうで考えてくださらなきゃ・・・」
冗談じゃない。原因がわからなきゃ治療のしょうがないではないか。
なだめ、すかし、じっくり理由を聞いたら、なんのことはない、事前に実家へ相談に行ったとき母親に固く言い渡されていたのだ。
「検査なんて恐ろしい。レントゲンを撮ったら、放射能が当たって奇形児ができるし、薬を飲んでもヘンな子が生まれるからネ。
無理しないで、自然に産めるようにしてもらうんだよ。専門家の先生なら、きっとなんとか考えてくれるはずやから・・・」
こういう母親は、概して一人息子、一人娘の親に多い。”早く産め、産め”とヤイヤイせきたてるくせに、肝心のところで干渉してくるのである。
当の夫婦自体も、どちらかというと神経質で、過保護タイプ、他人の言葉に左右されやすい。
P子さんも、私のところへ来診するまでに、市民病院などにも顔を出しているが、どこでもレントゲンの段階で逃げ出してきたという。
不妊症で一番厄介なのは、他の病気と違って「自覚症状がない」ということだろう。
胃炎なら、まず痛みが出る。肺炎なら熱が出る。その点、不妊症は”長年子どもができない”という現象があるだけで、痛くもかゆくもない。
だから、患者にわがままが出る。
結婚相手を探し始めようとしているなら、幸せへの近道です。
「しかしですよ、あなたには子どもができないという心の痛みがあるでしよ。その痛みをなくすためには、検査の我慢ぐらいしてもらわなくちゃ・・・」
「それじゃ、もう一度、母親に相談しまして・・・」
腰を浮かしかけて、P子さんは再び自信なさそうに考えこんだ。よほど繰り返し”検査恐怖症”をふきこまれてきたらしい。
「あなた、親のために産むんですか。自分のためでしょう」
私がとどめを刺すように言うと、ようやく微笑が浮かんだ。

参考: